年寄りが住みにくくなるのは確実や


落語医者の介護保険あまから問答 最終回
    北畑英樹氏 メイディカル・クオール NO39 1998

  最適なケアプランを立てられるのか
「ご隠居さんの話から、介護保険が動きだしたら、介護認定してくれる認定調査員と、ケアプランを作ってくれるケアマネジヤーの二人が、すごく大事だということがわかりました」
「そのとおりや。認定でどのランクになるのか、その範囲で何をしてもらうか、これを決めるのは、その二人やからなあ。でも、ケアプランについては本人の希望が優先するし、認定の範囲以上のサービスも自分で全額払うんやったらケアマネジヤーに相談すればええんやで」
「へえ。そうするとケアマネジヤーの仕事はJTBなんかの旅行代理店みたいなことするんですね」
「まあ、そんなことになるかな」
「まず予算があって、旅行者の希望に合わせてプラン立てて、これ以外にも別科金でなら、オプションとして、あれもこれもお楽しみいただけますという例のヤッですな。そしたら、そのケアマネジヤーのセンスが大事になりますなあ。そやけどケアマネジヤーつて仕事、聞いたことありませんで」
「そりやそうや、これから作る新しい仕事なんや。今、いろいろな団体が、あっちこっちでケアマネジヤーの資格を取るための講習会を開いているらしいで」
「それは、どんな人が資格取れるんですか」
「今の段階では、医療・保健・福祉の分野で、五年以上の実務経験がある人が、都道府県が実施する筆記試験に合格して、短期の実務研修を受けたらケアマネジヤーの資格が取れるんや」
「そんなら、お医者さんでも歯医者さんでも看護婦さんでも、介護福祉士とかいう人でも、薬剤師さんでも受験の資格はあるんですね。大事な仕事の割には、あんまり専門的でない人でもケアマネジヤーになれるような気がしますけど。どうして、そんなにケアマネジヤーがいるんですか」
「それぞれの介護サービス機関には、すべてケアマネジヤーを置くことが義務づけられてるから、ものすごい数のケアマネジヤーが必要になるんや。それぞれのサービス施設のケアマネジヤーは、その施設のなかでのサービスをどうするかのケアプランを立てるのが主な仕事や。できるだけ個人の状態に合わせたケアをするためにな」
「今までは、どちらかといえば定食メニューやったんですね」
「まあ、その傾向が強かった反省があるんやろ」
「それはわかりましたけど、わたしがケアプラン立ててもらう場合も、そのケアマネジヤーでいいんですか」
「それでもOKやし、自分で決めてもいいんやで、法律上は」
「でも、自分で決めるのは難しいでしょう。どんなサービスがどこにあるのかもわかりませんし…」
「そんな人のために、全体的なケアプランの相談業務を主にやる介護支援センターというのがあるんや。しかし、これは名前は独立してるように感じるけど、ほとんどは老人の施設に付属して、給料もそこから払ってもらうことになってるんや」
「それは、独立してないですか」
「そりや独立させたほうがええのは当然やけど、そうすると、その建物やら人件費やらの費用がかかるやろ」
「なるほどまたお金の問題ですか。でも、施設に付属しているセンターへケアプラン立ててもらいに行ったら、その施設の利用が増えるようなケアプラン立てるんと違いますか。ケアマネジヤーはその施設から給料もらってるんやから」
「そうや。その心配は大きいなあ。いくら、本人が不服でも、それに逆らうだけの材科をもってる年寄りは少ないやろうからなあ」
「下手したら、上手に勧められて、オプションまで契約させられたりする可能性もあるんと違いますか。
 せっかく、施設に来るんですから、ついでに入浴サービスも受けられたらどうすか、とかなんとかいわれて」
「う−ん。儲け主義の施設やったら、あるかもしれんな。
 それと、ワシが心配してるのは、ケアマネジヤーの前歴や。たとえば病院出身のケアマネジヤーと福祉出身のケアマネジヤーやったら、その考え方やら、得意分野が違うから、はたして年寄りに最適なケアプランを立てられるやろか。どうしても福祉出身は病気については弱いし、病院出身は福祉サービスについては弱いやろうと思うんや。いくら資格取ってても、もとのホームグランドのほうへ片寄ったケアプランてる可能性が強いと思うんや。」
「やっばり、認定調査員とケアマネジヤーは、よっぽど勉強してもらわんと、介護保険そのものを動かす人なんやから」
「まったく、熊さんのいうとおりや」

金がすべての老後になるわけですな
「でも、仮にすばらしいケアプランができても、以前の話では、受け皿が不足してるという事態もあるんでしょ」
「国やら都道府県の予想どおりの比率で利用するとは限らんから難しいやろなあ。まあ、ボチボチ手直ししながら時間かけてやるしか仕方がないんやろなあ」
「どうも、寒い話ですなあ」
「第二の国保になる危険性のある保険科の問題、『保険あって介護なし』になる可能性のある受け皿の問題、公平という名の不公平を生み出しそうな認定制度の問題、それに今のケアプランの問題、数えあげたら一から十まで全部が心配になってくるような制度や。
 参議院の厚生委員会でも参考人の意見を聞いたり、地方公聴会を開いたりしたんやけど、どちらでも問題点の指摘ばっかりで、厚生省も頭痛かったらしいで」
「それで、どんなことが問題になってたんですか」
「たとえば、痴呆の判定などは継続的な視点がなければ困難で、あんな短時間の認定では無理だとか、認定の第一次判定は調査員の聞き取り調査やが、これでは病気の有無や程度がわからないから困るとか、財源確保や基盤整備に対する不安とか、市町村での格差の問題とか、65歳以下の人の難病などの介護はどうするのかなど、いろいろと不満と不安だらけやったらしいで」
「ご隠居さんの心配してたことと同じことを心配してる人もたくさんいるんですねえ」
「そりや、そうや。こんな心配、だれでも思いつくハズやで。しかし、あんまり根本的な問題すぎて修正もできず、国も頑張りますというようなこと追加しただけで、ずるずると成立や。
 この後、厚生省は例の通達とか指導とかで形を整えようとするやろなあ。しかし、これは、考えたら厚生省が好きなようにやれるということやから、よけい心配やし、もともと根本的なところが問題な制度なんやから危なっかしい話やで。そもそも、はじめに財政あり、はじめに介護保険ありで話が進んでるのが原因や」
「結論は、いい老後を送ろうとすればお金がいるという世の中になるということですなあ。そのお金の話でも、医療費の自己負担はどんどん増える、片一方では、銀行も証券会社も生命保倹会社も潰れる、地球も温暖化やら大気汚染やらで危ないという話でしょ。
 こりや大変でっせ。もう、あんまり長生きしたくないですなあ。ひょっとしたら、こう思わせるんが国の狙い目かも知れませんなあ」
「まあ、そこまでひがんだ考えしたらいかんで…。そやけど、いずれにしても年奇りの住みにくい世の中になってくことは確実や。もう、これ以上、この話してたら気が滅入るから、これくらいで止めてお茶でも飲もか」
「そうですなあ。ご隠居さんのいうように、太く長く楽しく暮らしてコテッと死ねるように、神さんや仏さんにお頼みするしかないですなあ」



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