訪問看護の費用と自己負担
介護保険の実施により、訪問看護サービスの自己負担の問題で現場が混乱しています。
訪問看護はこれまでは医療保険で賄われ、医療機関からの訪問介護は医療費の一部として請求され、また訪問看護ステーションの訪問看護も1回250円の定額負担で行われていました。
ところが介護保険制度では、訪問看護は原則的に介護保険に組み込まれ、訪問看護を受ける度に1割の自己負担が必要になりましたし、別に新たに居宅療養管理指導料なる負担も増え、患者さんにとって、今までなかった自己負担が急に必要になったからです。
そしてもう一つ、医療保険を使うか、介護保険を使うかで自己負担に大きな差があり、例外的に「要介護認定を受けなければ」、医療保険だけで訪問看護サービスを受ける事も認められたため、主に訪問診察と訪問看護だけを利用している申請者では介護保険を利用しない方が自己負担が減るため、要介護認定の取り消し申請も行われています。
そこで訪問看護の事例について、今までの訪問看護と、介護保険後の訪問看護について、費用の概算と自己負担額を計算してみます。
対象は老人訪問看護を行っている方としますが、訪問看護を行うと言うことは、寝たきりまたはそれに準じた病態であり、当然通院は困難で訪問診察も行われており、また調剤薬局から薬剤の配送と指導があるものとします。
訪問診察には診療所では、在宅総合診療料(在総診)といって包括化された診療報酬の制度もありますが、ここでは在総診は行っていないものとします。
訪問看護は正看護婦が訪問し、週2回(月8回)の訪問看護を行い、時間は30分から1時間の場合とします。正看・准看のどちらが訪問するかで値段(報酬)が異なりますし、訪問の滞在時間でも異なります。
また、もう一つの違いがあります。
訪問看護を、訪問診察を行う医療機関が自院の看護婦を訪問させる場合と、訪問看護ステーションに依頼する場合とでも費用は違っています。そこで医療機関の場合と訪問看護ステーションの場合に分けて検討します。
全体の費用も計算してみますので医療機関からの訪問診察は週1回(月4回)とします。
他の介護サービスは今回はないものとします。また当然投薬や処置なども行われますが、この計算は複雑になりますので、処方・薬剤費などは計算から外しています。
ただ院外処方の場合には調剤薬局へ診療情報提供書を出しますのでこの費用はある事として計算しました。
こんな風に書くと、医療制度の診療報酬制度の複雑さ・わかりにくさが実感できると思います。
訪問看護一つを取ってみても、費用に大きな違いがあるのです。しかしこの費用区分は訪問を行う側の違いであって、看護を受ける患者さん側には何の違いもないのです。だから混乱するのです。
費用にこれだけ差があることは、これが今までは包括化されており、定額で1回幾らと決まっていましたので気がつかなかった為と思いますが、介護保険では定率負担となり1割負担となったので、差がはっきりしたためです。
12年3月までの計算
今までは訪問看護は医療保険対象でした
3月までの訪問診察と訪問看護
|
医療機関の訪問 | 訪問看護ステーションからの訪問 | ||
訪問診察費用 | 1回790点x4 | 31,600 | 1回790点x4 | 31,600 |
情報提供等 | 薬剤情報提供 | 2,200 | 訪問看護指示書 | 3,000 |
- | - |
- |
薬剤情報提供 | 2,200 |
計 | - | 33,800 |
|
36,800 |
医療費負担 | 1日530円x4 | 2,120 | 1日530円x4 | 2,120 |
|
医療機関の訪問看護 | 訪問看護ステーションからの訪問 | ||
訪問看護費用 | 1回530点x8 | 42,400 | 基本療養費 4700円x8 | 37,600 |
- | - | - | 管理療養費 | 20,000 |
計 | - | 42,400 |
|
57,600 |
合計 |
76,200 |
94,400 |
||
訪問看護負担 | 診療費に含まれる | 0 | 訪問看護 1日250円x8 | 2,000 |
1.医療機関からの訪問看護の場合
全て医療保険で計算していましたので、訪問看護には特別な負担はありませんでした。
医療費は 1点は10円として計算します
訪問診察は1回790点(7900円)・訪問看護は1回530点(5300円)ですので
訪問診察 1回790点X4回=31600円
訪問看護 1回530点X8回=42400円
調剤薬局への診療情報提供料 220点
合計の医療費は 月76200円となります。
自己負担を計算してみますと
訪問看護自体には自己負担はなく訪問診察時の医療保険負担
老人の在宅や外来診療は1日530円ですので
1回530円X月4回まで 合計 月2120円でした。
2.訪問看護ステーションからの訪問看護
訪問診療の医療費は1.の場合と同じです。
ただ訪問看護ステーションへの訪問看護指示書300点が増えます。
ステーションからの訪問看護は訪問回数によって費用が違いますがこの例では
基本療養費 4700円X8回=37600円と
管理療養費 訪問回数によって8回なら20000円で計57600円です
医療費の合計は
訪問診察 1回790点X4回=31600円、訪問看護指示書300点、情報提供料220点、
訪問看護57600円で 合計94400円となります。
自己負担は
訪問診察・医療保険への支払い 1回530円X月4回で月2120円
訪問看護ステーションへの自己負担
1回の訪問につき250円ですので 250円X8回=2000円
合計 月4120円です。
訪問看護ステーションに依頼する方が少し訪問看護の費用も自己負担も高くなっています。
身障者手帳1-3級の「カク福」受給者は全て医療費の補助がありますので自己負担はありませんでした。
今後の(4月以降の)訪問看護
介護保険制度では訪問看護の大部分は医療保険から介護保険へ移行しましたが、一部制度の運用で医療と介護どちらでも利用できる場合があります。基本的には要介護認定をうけて訪問看護サービスを利用すれば介護保険の費用となります。
そのため医療保険と介護保険で自己負担の割合が異なるため現場での混乱があります。また障害者医療補助で自己負担を免除されていた方たちも介護保険制度では1割負担が必要になり、ここでもトラブルが起こっています。
4月からの訪問診察・訪問看護 医療保険を使用
|
|
|
||
訪問診療 | 1回830点x4 | 33,200 | 1回830点x4 | 33,200 |
- | 薬剤情報提供 | 2,200 | 訪問看護指示書 | 3,000 |
- | - | - | 薬剤情報提供 | 2,200 |
計 |
- | 35,400 | - | 38,400 |
医療費負担 | 1日530円x4 | 2,120 | 1日530円x4 | 2,120 |
|
|
|
||
訪問看護費用 | 1回530点x8 | 42,400 | 基本療養費 5300x8 | 42,400 |
- | - | - | 管理療養費 | - |
- | - | - | 7,050+(2,900×7) | 27,350 |
計 |
- | 42,400 | - | 69,750 |
合計 |
77,800 |
108,150 |
||
訪問看護負担 | 診療費に含まれる | 0 | 訪問看護 1日250円x8 | 2,000 |
3.(要介護認定を受けず)訪問看護を医療で受ける場合
医療費
4月から訪問診察費用は訪問診察は1回790点から830点となりましたのでX4回=33200円となります。
医療機関からの訪問看護は1回530点X8回=42400円
診療情報提供料 調剤220点 計77800円
自己負担の計算
医療保険負担 老人の在宅や外来診療は当分は1日530円ですので
1回530円X月4回まで 合計 月2120円です
但し、次の診療報酬改定では老人医療費の定額制はなくなり1割負担になる予定ですので、その時は自己負担はアップします。但し7月予定の改定は総選挙の為今国会で審議されず先延ばしになっています。
4.(要介護認定を受けず)訪問看護ステーションから医療で受ける場合
医療費
訪問診察費用は830点となりX4回=33200円で同じです
訪問看護ステーションからの訪問看護費用は
基本療養費 1回5300円X8=42400円
管理療養費 初回7,050円+その後(2,900円×7回)計27350円 合計69750円です
医療費の合計月108,150円となります
自己負担はやはりこれまでと同じく
訪問診察・医療保険への支払い 1回530円X月4回で月2120円
訪問看護ステーションへの自己負担
1回の訪問につき250円ですので 250円X8回=2000円
合計は今までと同じく 月4120円です
5.訪問看護を介護保険で行う場合
|
|
|
||
訪問診療 | 1回830点x4 | 33,200 | 1回830点x4 | 33,200 |
|
薬剤情報提供 | 2,200 | 訪問看護指示書 | 3,000 |
- | - | - | 薬剤情報提供 | 2,200 |
計 |
- | 35,400 | - | 38,400 |
医療費負担 | 1日530円x4 | 2,120 | 1日530円x4 | 2,120 |
|
|
|
||
訪問看護費用 | 1回550単位x8 |
44,000 |
1回830単位x8 |
66,400 |
居宅療養管理指導 | 診察機関 | 9,400 | 診察機関 | 9,400 |
調剤薬局 |
550単位x2 | 11,000 | 550単位x2 | 11,000 |
計 |
- | 64,400 | - | 86,800 |
医療・介護 合計 |
- | 99,800 | - | 125,200 |
医療費自己負担 | 1日530円x4 | 2,120 | 1日530円x4 | 2,120 |
看護費自己負担 | 1割負担 | 6,440 | 1割負担 | 8,680 |
合計 |
|
8,560 |
|
10,800 |
訪問看護は
医療機関からの場合 1回550単位X8回=44000円
訪問看護ステーションの場合 1回830単位X8回=66400円
介護保険の報酬制度は単位を使います。1単位10円が基本ですが介護保険では地域によって1単位が10円でない割り増しの場合も設定されています。
その他の負担の新設
介護保険では新たな指導料が加えられました。
居宅療養管理指導料と言う指導料で 医療機関は月1回 940単位、
調剤指導は1回550単位、月2回まで可能で 計1100単位の加算もあります。
医療費と介護費
医療機関の場合
訪問診察費用は830点X4回=33200円、情報提供220点、
訪問看護1回550単位X8回=44000円、居宅療養管理指導料 940単位、1100単位
合計99800円
この自己負担は
医療費は1回530円X月4回まで 月2120円
介護保険への請求は
訪問看護440000円の1割 月4400円と居宅療養管理指導料等 2040円
計 8560円
訪問看護ステーションの場合
訪問診察費用は830点X4回=33200円、訪問看護指示書300点、情報提供220点、
訪問看護1回830単位X8回=66400円
居宅療養管理指導料 940単位、1100単位 合計125200円
この自己負担は
医療費は1回530円X月4回まで 月2120円
介護保険は
訪問看護66400円の1割 月6640円と居宅療養管理指導料等 2040円
計 10800円
「カク福」身障者も介護保険制度での自己負担は同じで医療負担以外の
計 医療機関の場合 6440円
訪問看護ステーションの場合 8680円
いままで医療保険で補助されていた金額が介護保険では補助がうち切られ自己負担が必要になったと言うことです
これは訪問看護と訪問診察だけのシミュレーションですので、これに他のサービスが加われば当然もっと負担は増えます。
訪問看護だけの利用しかない方にとって介護認定を取り消し医療保険での訪問看護を希望することも可能で、そうすれば次の医療費の改訂まではかなり自己負担は軽減できますし、「カク福」身障者では全て医療保険ですので自己負担はなくなります。
長期間の療養をされている身障者に、「介護保険は公平な負担」を名目に新たな負担を強いているのです。
ならばケアプランも障害者に出来るだけ有利に計画することはケアマネにとっても重要な役割であり、場合によっては要介護認定を取り消す事も指導の一つではないでしょうか。
分かりやすい医療制度を訴えていますが、介護保険がらみでますます制度は複雑化しわかりにくくなっています。それも前述しましたが、利用者にとってではなく、医療や介護を行う側の事情で報酬が違うわけで、誰も納得しているのではないと思います。
この説明文を書いていて、何度もこんがらがってしまいましたし、間違った計算があるかも知れません。その時はご容赦下さい。
医療制度・介護保険制度も、もっと分かりやすい制度にならないと情報開示を行っても、理由の説明は出来なくなります。
12年4月25日 吉岡春紀
追加資料・訪問看護の費用
介護保険 | ||||
訪問時間 | 医療機関の訪問看護 | 円 | 訪問看護ステーションからの訪問 |
円 |
30分未満 |
343単位 | 3430 | 425単位 | 4250 |
30分-1時間 |
550単位 | 5500 | 830単位 | 8300 |
1時間-1時間30分 |
845単位 | 8450 | 1198単位 | 11980 |
医療保険 | ||||
訪問回数 | 医療機関の訪問看護 | 円 | 訪問看護ステーションからの訪問 | 円 |
正看・保健婦1日につき |
- |
- | 訪問看護基本療養費 | - |
週3日目まで |
530点 | 5300 |
正看等1日につき |
5300 |
週4日目以降 |
630点 | 6300 |
准看1日につき |
4800 |
准看1日につき | - | - | 訪問看護管理療養費 | - |
週3日目まで |
480点 | 4800 |
初日 |
7050 |
週4日目以降 |
580点 | 5800 |
2回目以降 |
2900 |
上の例で説明したのは30分から1時間の訪問をシミュレーションしましたが、それ以外の場合もあります。
介護保険と医療保険
訪問が医療機関と訪問看護ステーション
訪問時間も介護保険では30分刻み、医療保険では1日につき
正看・保健婦などの訪問と准看の訪問
などで訪問看護の報酬はこれだけ違っています。なぜ保険で報酬が違うのか、医療機関と訪問看護ステーション
でもこれだけ費用が違うのかは、説明されていません。