「事例11」の検討
介護認定審査員研修会
先日我々の地域(1市7町1村)の介護認定審査員を対象に山口県主催の研修会が開催されました。
約100名の審査員が集まりました。
県の介護保険対策室の担当者から1.2.の説明があり
1.審査判定の留意点
認定の有効期間の延長・短縮について
2.二次判定変更事例の紹介
「事例集21」
「元気な痴呆」例で問題行動の常時の見守りが必要なため要介護2を要介護3にした「事例21」の説明がされました。しかしこの例でも介護度をどの位アップしたら良いのかは、結論は出ませんでした。
その後参加者を10グループに分け、厚生省の要介護認定二次判定事例集の
事例1 自立-要支援
事例11 歩行障害・日差変動の激しいパーキンソン症候群
事例26 多くの問題行動のある元気な痴呆例
を使って各グループで実際の審査会の様に審査判定を行うグループ討議が行われました。
全くの初対面の方たちもあり、状態像の資料などもなく、それで模擬審査を行うこと自体無理がありますし、これで結論を出すわけでもなく、認定審査の方法そのものの研修にはならなかったと思います。
むしろ一次判定の矛盾を全審査員に理解して貰うことや各審査会での二次判定へのいろんな工夫や取り組み・悩み等を審査会別に発表する方が、もっと有意義になったのではないかと思います。
また「厚生省の要介護認定二次判定事例集」のいろんな例の説明でもあるのかと思っていました。インターネットでもこの事例集に選ばれた例の矛盾がたくさん報告されており、そのためなのかこの事例集は、今回の討議に利用した3例以外は、「各自読んでおいて欲しい」くらいの説明しかなく、個人的には事例集の問題点を取り上げたいと思っていたのに、拍子抜けでした。
それなら何でこんな事例集を作る必要があったのか、また分からなくなります。
全審査員に290ページを越す立派な厚い冊子が配布されました。
また、審査会には日当が支給されると聞いています。通常の審査会並なら我々の審査会は一人1万3000円程度ですから、全員なら岩国医療圏で100万円以上となります。これを県内全てで行えば、1000万円以上の研修会の日当が必要になるわけです。
ついでに全国レベルで考えると、山口県で1000万円ですから1県1000万円としても47都道府県で約5億円、勿論そんなものでは納まらず審査の人口を考えると10億円以上は必要ではないかと思います。
これが介護保険の財政から支出されるとしたら考えさせられます。
こんな審査員研修会に使う金があるなら、例えば新たな要介護認定ソフトの開発か・改良ソフトの一般公募でも行い、最優秀作品に1億円でも出せば、多くの学者や関係者がもっと良い認定システムを作ってくれると思いますし、IT戦略の協力にもなると思います。
そして、この研修会では各審査会でいろんな判定となる結果を、出来るだけ公平な統一した判定結果になるように、研修を行う事が必要であると考えていた私には、今回の研修では県の担当者から「各審査会でいろんな意見があって良いし、判定結果も審査会で異なって良い」と言う説明にはびっくりしました。これまで厚生省は全国一律の「公平な?」認定を訴えていたはずであり、こんな説明になるとは思いませんでした。
厚生省も一次判定ソフトの見直しや検討はすでにスタートしている様ですが、それまではもう公平な認定はあきらめ、二次審査は十分に話し合い審査をすれば、結果は問わないという風に変わってきたという印象です。
いずれにしろ3年後の認定制度見直しを予定していることであり、それまでは手直しは行わず、今の認定システムをやり通す考えのようです。そのためしばらくは更新認定は混乱続きだと思います。
さて、前置きが長くなりましたが「事例11」について述べます。
「事例11」は71歳の女性で在宅介護を受けています。
主治医意見書では「病名はパーキンソン病で、平成6年頃からの発病し、歩行困難、すくみ足、ジスキネジアが認められ、全身の筋力低下・上下肢の失調・不随意運動あり」。特記事項には「日内変動が著明でon-off現象がありoff時は歩行起立困難」と記載されています。自立度はA1・I
となっています。
認定調査結果は下記の項目にチェックされ、一次判定は45分「要介護1」となっています。調査員の自立度はJ1・ Iで主治医意見書よりやや軽めの障害判定になっています。
一次判定を確認する時の問題として、この例では調査の特記事項に「歩行が時間によって、できないこともある」と記載され、また嚥下の項目にも「調子が悪いと薬や食事がよく喉に引っかかることがある」と記載されており、主治医意見書でも日差変動が著明と書かれており、調査時の状況は日頃の状況より軽いときの調査であろうと判断され、グループの審査でもこの項目を取り上げる必要があることが認められ、調査の修正を行ったものが2列目ですが、歩行に介助を加えても基準介護時間は変化なく、嚥下の見守りを加えて49分となりました。
概況調査
日頃の認定審査と違ったのは、事例集には概況調査が示されていることであり、この概況調査があることは二次判定にとって非常に重要であると考えられます。但し現在の認定審査では概況調査の事項は勘案してはならない事になっており、二次判定に反映できません。要介護認定制度ではこの規定を外すことが必要で以前から訴えていますが実現していません。本来は家庭環境・住居環境・周囲の環境を考慮した要介護度を認定することが、申請者にとってもっとも必要なことではないでしょうか。ただこの事例集に概況調査票を掲載したことは、厚生省も少しこの点を見直し始めたと考えたいと思います。二次判定の変更事例集に掲載したと言うことは、通常の認定審査でも概況調査を要求しても良いという事ではないかとも考えますが、果たしてどうなるのでしょうか。
さて、この事例の概況調査では夫と離婚後、実子のない独居老人であるも書かれていますし、周囲のボランティアの方たちの援助でなんとか在宅の生活が行える状態であることも理解できます。今後在宅では治療・介護を続けて行くためにはかなり多くの介護を必要とする例であり、グループ審査でも要介護度のアップは全員一致でした。
ただし、どの程度のアップが必要かは結論は出ず、これだけの症状がひどくなる時には、「第5群の身の回りの介護も必要になるのではないか」という質問もありましたが、特記事項にはこの事は全く取り上げられてないため、考慮する事にはなりませんでした。前述したように、調査の日には症状が軽かった可能性が考えられますが、グループ審査の結果は1ランクアップの「要介護2」で、ほぼ全員まとまりました。
片麻痺と両側麻痺の逆転
この一次判定ソフトの欠陥として、麻痺の取り上げ方でびっくりする逆転があること、特に両側麻痺と片麻痺の違いについては別のページで報告したとおりです。
そこで、この例でも両側の上下肢麻痺を右片麻痺だけとしてみると予想通り、介護時間は増え60分となり、一次判定でも「要介護2」が出ることが分かります。
そして、この状態での逆転現象を見てみますと、「浴槽の出入り」「洗身」を「一部介助」から「できる」に変えた途端に介護時間は71分と増え、明かな逆転が見られ「要介護3」となります。
と言うことは、事例11では、一次判定を介護の手間がかかること理由に二次判定で1ランクアップしたわけですが、この状態(調査の修正)よりもっと症状が軽い状態(片麻痺-逆転アップ)で2ランクアップもし、一次判定で「要介護3」もあり得ることより、二次判定の「要介護2」の結果が、果たして正しいのかと考えれば、そうとも言えないのではないか思われた。要するにこの一次判定ソフトを使っての認定は、どの審査会でも同じ二次判定を期待することは出来ない事が明白であり、「公平性」を求めることは出来ないと考えます。
麻痺の部位による一次判定の矛盾はこのソフトの欠陥の一つであることを認識して欲しいと思います。
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第1群 |
1.麻痺 左-上肢 |
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(麻痺拘縮) |
右-上肢 |
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左-下肢 |
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右-下肢 |
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第2群 |
1.寝返り |
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(移動) |
2.起き上がり |
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3.両足での座位 |
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4.両足つかない座位 |
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5.両足での立位 |
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6.歩行 |
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7.移乗 |
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第3群 |
1.立ち上がり |
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(複雑動作) |
2.片足での立位 |
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3.浴槽の出入り |
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4.洗身 |
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第4群 |
1.ア.じょくそう |
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(特別介護) |
イ.皮膚疾患 |
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3.嚥下 |
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第5群 |
1.ア.口腔清浄 |
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(身の回り) |
イ.洗顔 |
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ウ.整髪 |
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エ.つめ切り |
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2.ア.ボタンかけ |
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イ.上衣の着脱 |
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ウ.ズボンの着脱 |
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エ.靴下の着脱 |
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3.居室の掃除 |
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4.薬の内服 |
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5.金銭の管理 |
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6.ひどい物忘れ |
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7.周囲への無関心 |
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第6群 |
1.視力 |
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(意志疎通) |
2.聴力 |
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要介護 |
基準時間 |
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一次判定 |
結果 |
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今回は「事例11」について感想を述べました。 12年10月21日 吉岡春紀
玖珂郡医師会ホームページでも事例集の検討を行っています
「厚生省 要介護認定二次判定変更事例集における」元気な痴呆・問題行動例の補正