改訂版の一次判定ソフトについては全国のモデル地区での使用実験が行われており、15年4月からの全国の審査会での運用に向けてすべての審査会で確認作業に入っています。
前回のページでお伝えしたようにこの改訂版一次判定ソフトは、尾形医師は「改訂版一次判定ソフトは痴呆性高齢者については全体的に高めの要介護度が判定されるようになってはいるが、相変わらずの逆転現象は改善されず、審査会による二次判定に寄与しないと思います。」と結論されています。そこで公開されている改訂版の一次判定のソフト(橋本先生の上州街道Ver.2)を使わせていただき少し検証してみました。
結論から言うと、改訂版も相変わらず問題解決になっていないのですが、今回はその内容を少しお伝えしたいと思います。
(注 上州街道Ver2をクリックすると自動的にダウンロードが始まりますのでご注意下さい)
改訂版の検証をどこから説明しようかと思いましたが、
「ラッキーセット」はあるのかという事からはじめます。
「ラッキーセット」
現行のソフトではたった4項目で「要介護1」や「要介護2」となるラッキーセットがあることはご存じだと思います。調査項目の配点・樹形図の扱いで、ある項目に異常な高得点がはいり結果的に数項目で、30分・50分を超える点数になるのです。これにより異常に高い要介護度が判定されたり、逆に他の項目を加えてゆくと介護時間が減ってしまう逆転現象を起こすのです。
改訂版でも現行と少し項目は異なりますが、ラッキーセットは存在しました。それよりももっと驚いたのはたった4項目で「要介護3」となる組み合わせが、出現したことです。こんな事が起こると言うことは、説明不明な要介護度が判定される事があると言うことでもあります。
現行の一次判定の調査項目で逆転現象を起こす事が多かった調査項目「両足をつかない坐位」がなくしてしまっていますので、逆転現象は減ったのかと思いましたがそうではありませんでした。
最初ラッキーセットと読んでいた
拘縮 膝関節、
歩行 つかまれば可、
立ち上がり つかまれば出来る、
片足での立位 支えあれば可
の4項目は現行では31分で「要介護1」となっていましたが、改訂版では26分で「要支援」になっています。
その他のラッキーセットも多くは要支援のレベルになっていますが、
新たに5群の身の回りの項目、
「口腔清拭、洗顔、整髪、爪切り」の4項目全介助で30.7分の「要介護1」が出現しました。
また第5群では「ズボンの着脱」はこれだけ全介助で36.1分に突然増えてしまい、他に何か3項目を加えれば「要介護1」となります。新たなラッキーセットでしょう。
新たに項目が再編された「排便」にも少し過剰な配点があります。「排便の一部介助」で31.1分となり「排尿の全介助」を加えれば45.1分となります。他に何か2項目を追加すれば「要介護1」です。
また排尿・排便を全介助とし、爪切り全介助を加えれば57.4分になり洗顔全介助でも加えて4項目「要介護2」もあります。
現行の4項目で「要介護2」の組み合わせは、右上肢・右下肢麻痺(片麻痺)、歩行・つかまれば可、移乗・見守りは62分から改訂版では57.3分と少し時間は減ってはいますが相変わらず「要介護2」です。勿論右上下片麻痺の状態に左下肢麻痺が加われば36分になり逆転現象を起こし、介護度は減ります。麻痺の逆転現象は解決されていません。
今回のソフトでもっと驚いたのは現行では無かった4項目で「要介護3」という組み合わせがあることです。前述したように、こんな組み合わせがあること自体欠陥ソフトと言って良いと思います。
「食事・飲水」を全介助、「排便・排尿」を全介助はなんと83.3分となりこの4項目で「要介護3」となります。
また「右上肢・右下肢麻痺(片麻痺)」、「移乗」見守り、「ズボンの着脱」全介助でも86.2分で「要介護3」です。
もっと驚くのは「食事・飲水」を全介助、「排便・排尿」を全介助と「右上肢・右下肢麻痺(片麻痺)」、「移乗」見守り、「ズボンの着脱」全介助の「要介護3」のセットを加えたら8項目で126.5分となり「要介護5」となってしまいました。と言うか8項目にすることなく「右上肢・右下肢麻痺(片麻痺)」、「移乗」見守り、「ズボンの着脱」全介助の4項目に「食事」全介助を加えたらたった5項目で116.5分となり一次判定「要介護5」です。
お分かりのように現行ソフトの欠陥は解決されていませんし、もっと悪くなった印象もあります。現行のソフトで逆転現象を起こすことが多かった調査項目を外した事や樹形図を減らしたことにより、変わりにまた別の逆転項目や異常の高点数が出現したと言うことです。
要介護認定の調査は「何のための調査か」を忘れて、一次判定の欠陥を隠すために調査項目を変更したとしか思えません。本来の要介護認定は、どんな項目に介助が必要なのかを調べるための調査のはずです。今回入浴に関する項目が外されました。日常生活において、食事や入浴は欠かせない調査項目ですが、食事の用意(近くの店への買い物・調理)や自分で食事が出来るか、後かたづけは出来るのか、風呂の用意も自分で出来るのか、風呂に入れるのか、どんな風呂なのか、、、こんな事も調査しなくては在宅での介護度は分からないと思います。
それなのに一次判定の為だけに調査項目をいじくっても仕方ないと思います。
もっと検証すればいろいろあるかも知れません。是非確かめてください。
全項目・全介助で「要介護4」
現行の一次判定でも第7群の問題行動以外の全ての項目に全介助をチェックすると、要介護認定等基準時間は105分で、一次判定は「要介護4」でした。二次判定変更事例集Vol2でも事例22で指摘され、ここでは周囲の無関心を外せば134分となり「要介護5」になるため、意識障害を伴ったCランクでは、ひどい物忘れと周囲の無関心は外すように言われていました。
今回の改訂版では「ひどい物忘れと周囲の無関心」は5群の調査項目から無くなりましたが、やはり同じような問題が起こっています。
改訂版で第7群の問題行動以外の全ての項目に全介助をチェックすると、107.5分となり一次判定は「要介護4」です。どの項目で逆転するか調べると、6群の「毎日の日課の理解」を「出来ない」から「できる」にすれば119分で「要介護5」になります。現行の「周囲への無関心」と比べて「毎日の日課の理解」は「出来ない」はずですので、今後は変更事例集ではどう言い訳をするのでしょうか。他にも食事や嚥下、電話、排尿などが出来るようになれば「要介護5」と重くなる逆転項目があります。
もっとおかしいことは前述した5項目で116.5分となり一次判定「要介護5」があるのに、全項目チェックすれば107.5分となり一次判定は「要介護4」というのも、どう説明したら良いのでしょうか。
痴呆・問題行動について
痴呆や問題行動については多少配点をしたようですが、やはりこれだけ(コンピューターによる判定)では解決できなかったのか、問題行動の種類によって介護度を増やして良いようにチェックをつけています。
その他にも「運動能力の低下していない痴呆性高齢者(動ける痴呆)の指標として、得られた結果に基づき一段階の重度変更を考慮する場合にはチェック1個、二段階の重度変更を考慮する場合には2個のチェックが入る」様になっているようです。二次判定ではこのチェックにより重度の変更を行って良いと言うことのようです。今回の上州街道ソフトではまだこのチェック項目は利用できませんでした。
痴呆・問題項目は現行では第7群の問題行動すべてをチェックしても26分でしたが、改訂版では41.7分となり1ランクはアップしています。但しこれも特定の項目だけで逆転現象があります。第6群-5と7群すべてありにしても41分にしかなりません。
但し問題行動「あり」も感情不安定・同じ話し・落ち着きなし・一人で戻れない・異食行動・ひどい物忘れの項目だけでも44.6分ですので、問題行動の重み付けも介護の手間も考慮されているわけではありませんし、全項目「あり」の方が基準時間は41.7分と減っているのですから当てにはなりません。
これでは自信を持って改訂版は改善したとは言えないと思います。本質的な問題点は何一つ解決されていません。もっと言えば痴呆や問題行動は要介護の基準時間では判定できないため、問題行動のある例は適当に二次判定でアップして良いという曖昧な基準や要介護度変更の指標なるものを作ってしまったと言うことです。コンピューターによる要介護度の鑑別を諦めてファジーな方法を導入してしまったのです。
それならば時間をかけて、金をかけて改訂版を作った意味もありません。元々判定できないのなら「寝たきり度・痴呆度」の組み合わせでもおおざっぱな認定できるはずです。新しいシステムを全国の自治体が導入するにはまた大きな予算が必要だと思います。
今回はもっと詳しい検証は行えませんでしたので、現行で我々が審査している基本となる「状態像の例」で改訂版を検証してみました。
現行の「状態像の例」60例の、改訂ソフトによる一次判定結果
表-1に示しますように、要支援から要介護5まで各々10例が示されていますが、この事例の改訂一次判定は大きく変化しました。
要介護1の例では1例を除き一致しましたがそのほかの状態では介護度が軽くなる例、重くなる例があり、現行の状態像が正しいとすれば、改訂版はそれを正しく判定されないとも言えます。特に要介護2・要介護4は大きく判定が分かれてしまいました。
表-1
要支援 |
基準時間 |
判定結果 |
要介護1 |
基準時間 |
判定結果 |
要介護2 |
基準時間 |
判定結果 |
例1 |
27.4 |
要支援 |
例1 |
41.6 |
要介護1 |
例1 |
46.3 |
要介護1 |
例2 |
48.5 |
要介護1 |
例2 |
49.2 |
要介護1 |
例2 |
46.1 |
要介護1 |
例3 |
27.7 |
要支援 |
例3 |
48 |
要介護1 |
例3 |
56.7 |
要介護2 |
例4 |
26.3 |
要支援 |
例4 |
38.8 |
要介護1 |
例4 |
56.7 |
要介護2 |
例5 |
23.1 |
非該当 |
例5 |
38.8 |
要介護1 |
例5 |
48.6 |
要介護1 |
例6 |
28.7 |
要支援 |
例6 |
37.2 |
要介護1 |
例6 |
90 |
要介護4 |
例7 |
23.7 |
要支援 |
例7 |
36.3 |
要介護1 |
例7 |
56 |
要介護2 |
例8 |
27.7 |
要支援 |
例8 |
36.3 |
要介護1 |
例8 |
74.1 |
要介護3 |
例9 |
36.9 |
要介護1 |
例9 |
36.3 |
要介護1 |
例9 |
46.6 |
要介護1 |
例10 |
26 |
要支援 |
例10 |
29.7 |
要支援 |
例10 |
43.8 |
要介護1 |
要介護3 |
基準時間 |
判定結果 |
要介護4 |
基準時間 |
判定結果 |
要介護5 |
基準時間 |
判定結果 |
例1 |
87.9 |
要介護3 |
例1 |
101.3 |
要介護4 |
例1 |
138.3 |
要介護5 |
例2 |
78.7 |
要介護3 |
例2 |
113.8 |
要介護5 |
例2 |
115.3 |
要介護5 |
例3 |
85.4 |
要介護3 |
例3 |
123.1 |
要介護5 |
例3 |
130.9 |
要介護5 |
例4 |
101.5 |
要介護4 |
例4 |
107.3 |
要介護4 |
例4 |
123.4 |
要介護5 |
例5 |
86 |
要介護3 |
例5 |
98.1 |
要介護4 |
例5 |
117.5 |
要介護5 |
例6 |
55.5 |
要介護2 |
例6 |
82.7 |
要介護3 |
例6 |
115.8 |
要介護5 |
例7 |
69.7 |
要介護2 |
例7 |
94.5 |
要介護4 |
例7 |
109.8 |
要介護4 |
例8 |
77.5 |
要介護3 |
例8 |
88.8 |
要介護3 |
例8 |
131.9 |
要介護5 |
例9 |
75.2 |
要介護3 |
例9 |
110.5 |
要介護5 |
例9 |
109.7 |
要介護4 |
例10 |
72.3 |
要介護3 |
例10 |
99.7 |
要介護4 |
例10 |
133.1 |
要介護5 |
青色は改訂版で要介護度が軽くなったもの、ピンクは一致したもの、緑は重くなったものを示します。
また調査項目の変動により入力項目は多少異なりますので、全て同じ比較とは言えません。
表-2 現行の状態像と改訂版の一次判定結果
非該当 |
要支援 |
要介護1 |
要介護2 |
要介護3 |
要介護4 |
要介護5 |
|
要支援 |
1 |
7 |
2 |
||||
要介護1 |
1 |
9 |
|||||
要介護2 |
5 |
3 |
1 |
1 |
|||
要介護3 |
2 |
7 |
1 |
||||
要介護4 |
2 |
5 |
3 |
||||
要介護5 |
2 |
8 |
表2のように一致例は60例中40例(67%)、軽く判定されたもの12例(20%)、重く判定されたもの8例(13%)でした。
変更事例集の一次判定と改訂ソフトによる一次判定結果
昨年9月厚労省から「要介護認定二次判定変更事例集Vol2」が二次判定の参考資料として配付されました。この一次判定結果と改訂版の一次判定を比べてみました。
これでも同じような変化で一致率はもっと少なくなっています。まあこれは変更事例ですので合わなくて当然とは思いますが、それにしても一致率は30%しかありません。個別の評価は別の機会にしたいと考えますが、いずれにしろ問題だらけで、現行のソフトの改善とは言えないと考えます。
表-3 変更事例集の一次判定と改訂ソフトによる一次判定結果
現行ソフト |
改訂 |
ソフト |
|||
基本時間 |
一次判定 |
二次判定 |
基本時間 |
一次判定 |
|
事例1 |
24 |
非該当 |
要支援 |
26.3 |
要支援 |
事例2 |
30 |
要介護1 |
要支援 |
35 |
要介護1 |
事例3 |
32 |
要介護1 |
要支援 |
27.7 |
要支援 |
事例4 |
31 |
要介護1 |
要支援 |
31.4 |
要介護1 |
事例5 |
24 |
要支援 |
要介護1 |
36.9 |
要介護1 |
事例6 |
25 |
要支援 |
要介護1 |
35 |
要介護1 |
事例7 |
29 |
要支援 |
要介護1 |
37.6 |
要介護1 |
事例8 |
27 |
要支援 |
要介護1 |
37.8 |
要介護1 |
事例9 |
53 |
要介護2 |
要介護1 |
45.9 |
要介護1 |
事例10 |
42 |
要介護1 |
要介護2 |
46.1 |
要介護1 |
事例11 |
33 |
要介護1 |
要介護2 |
40 |
要介護1 |
事例12 |
49 |
要介護1 |
要介護2 |
42.1 |
要介護1 |
事例13 |
29 |
要支援 |
要介護2 |
34.1 |
要介護1 |
事例14 |
71 |
要介護3 |
要介護2 |
47.3 |
要介護1 |
事例15 |
52 |
要介護2 |
要介護3 |
56.1 |
要介護2 |
事例16 |
61 |
要介護2 |
要介護3 |
58.1 |
要介護2 |
事例17 |
102 |
要介護4 |
要介護3 |
71.1 |
要介護3 |
事例18 |
112 |
要介護5 |
要介護3 |
81.4 |
要介護3 |
事例19 |
110 |
要介護5 |
要介護3 |
91.2 |
要介護4 |
事例20 |
70 |
要介護3 |
要介護4 |
70.5 |
要介護3 |
事例21 |
112 |
要介護5 |
要介護4 |
94.5 |
要介護4 |
事例22 |
105 |
要介護4 |
要介護5 |
128.8 |
要介護5 |
事例23 |
102 |
要介護4 |
要介護5 |
116.5 |
要介護5 |
表-4 事例集の現行と改訂の一次判定
横軸改訂ソフトによる一次判定結果
縦軸事例集の一次判定結果
非該当 |
要支援 |
要介護1 |
要介護2 |
要介護3 |
要介護4 |
要介護5 |
|
非該当 |
1 |
||||||
要支援 |
5 |
||||||
要介護1 |
1 |
5 |
|||||
要介護2 |
1 |
2 |
|||||
要介護3 |
1 |
1 |
|||||
要介護4 |
1 |
2 |
|||||
要介護5 |
1 |
2 |
事例集では一致例は23例中7例(30%)、軽度・重度判定は各8例(35%)でした。
以上簡単に改訂版一次判定ソフトの検証を行ってみましたが、橋本先生も「模擬一次判定ソフトは、より良い一次判定、ひいてはより良い要介護認定のために開発されたものです。多くの方の積極的な御活用を願って止みません。」 と述べておられるので是非皆様も、改訂版の判定を実際に行って問題点を報告していただきたいと思います。
ただ一つ改訂版ソフトの改良点は、更新認定の時、前回の申請時の調査項目を表示する機能が加わったことです。これがあると前回より介護度が増えたのか、減ったのかが項目として理解できます。このこともあまりにコンピューターの一次判定がばらつくので前回の状況と目で見て比べることによりファジーに二次判定して良いと言うことなのでしょうか。
平成14年11月7日、9日一部修正・加筆 吉岡@玖珂中央病院