療養病床でのがん治療について
慢性期病院(療養病床)の包括化が、重度の障害を持った方たちの受け皿施設になりにくい現状を説明しましたが、脳血管障害での重度の肢体不自由だけでなく、がんの末期患者さんも、最近は専門施設の入院継続が難しくなり、かといって高齢化や核家族化で在宅での治療継続や看護も難しい現実があります。
先日厚労省は、在宅の終末医療後押し 診療報酬の加算を検討
「患者が終末期を自宅や地域で迎えるため、医師や看護師、薬剤師など医療関係者とケアマネジャーら介護スタッフが連携する「在宅医療チーム」の体制づくりに乗り出す方針を固めた。自宅などで亡くなる人の割合を現在の約2割から4割にすることを目指す。」という方針を発表しました。
しかし、医療費抑制のために在宅死を増やすという発想の政策ですので、本当に患者さんのための政策なのかは疑問です。
在宅医療、特に終末期の医療は、かかりつけ医との信頼関係があってこそ成り立つものだと思います。毎日いろんな人が来て行う介護サービスとは違います。終末期のチーム医療は結構ですが、本当に在宅での終末期医療を行い、在宅死を増やすには、家族の犠牲や看護のできるような自宅改修などが問われます。
家族のあり方や、家族を看取るってことがどういうものなのか、世間の人たちにもっと考えてもらいたいと考えていますが、今の日本で在宅死を選択できる人は限られていると思います。
結局、この「在宅医療チーム」構想も、机上の空論で終わりそうなきがします。本当に、社会は在宅死を欲しているのか、それを受け入れられる環境なのかよく考えてみる必要があります。在宅終末医療の診療点数をあげるだけで、在宅死が増えるとは到底思えません。
本当に在宅で畳の上で死にたいと、意思表示出来る患者さんは極わずか、中高年の男性の告知を受けた、癌患者さん位ではないかとおもいます。
勿論、本人の意志で在宅死を望まれ、その看護ができる家族があり、住居環境なら積極的に手助けをすることに、異はありません。
○がんの麻薬処方について
最近高齢者のがん患者さんの、療養病床への転院も増えてきました。
何度か、専門病院に入退院し、治療を続けてきたが、それこそ家庭の事情からこれ以上の看護はできず、かといって専門病院の入院継続もできなくなり、仕方なく紹介されるケースが多く見られます。
それまでの医師と患者のつながりや信頼関係を壊してまで、転院せざるを得ないシステムにしてしまったからです。
このような、予後不良のがん末期患者さんの受け皿は、まだ多くはありません、在院日数に制限受けない療養機関が必要なのです。
その受け皿になろうとしても、今の療養病床の診療報酬制度はそれを難しくしててます。
がん末期患者さんの治療に重要なのが、がんの痛みの管理ですが、現在麻薬の処方が現場でも一般的になり、内服薬や外用薬が保険適応となり療養病床でも使われています。
しかし、これらの麻薬の薬価は極めて高く、欧米の3倍とも言われています。保険適応での処方も3割負担ならかなり高額な薬剤費となります。そのため療養病床でのがん末期の麻薬使用は、薬剤だけで基本入院料をオーバーしてしまう事もありがん末期患者の受け入れは制限されてしまっています。
また、麻薬の管理は厳格に管理することが医師・病院に対して求められていますし、一般の薬品と異なり、メーカーへの返品は事実上不可能で、おまけに金庫に保管しなければならなりません。
急性期病院や、専門病院から紹介されたとしても、さまざまな痛みに対応した麻薬をすべて購入処方することは、高価な麻薬のデッドストック化を恐れる病院側は、及び腰になってしまこともあります。
現在専門病院から、当院に紹介された70代の肺がん術後、多発性骨転移で、腰椎の病的骨折もありベットから動くことはできません。かなりひどい痛みを訴えられ、多剤の麻薬を処方されなんとか痛みのコントロールができている状態です。
この患者さんでは紹介先の病院での麻薬処方は
MSコンチン錠10mg+30mg 1回40mg 朝・夕
デュロテップパッチ7.5mg 2枚/3日
レスキュー的に
オプソ内服液10mg 5ml 頓用
であり薬価は
MSコンチン錠10mg 268.3円/錠
MSコンチン錠30mg 771.4円/錠
1回分40mg 1039.7円円 1日 2079.4円
デュロテップパッチ7.5mg 9745.4円/枚
2枚 19490.8円 3日に2枚 1日 6496.3円
オプソ内服液10mg 5mL 240.3円 1日 240.3円
麻薬薬価のみ合計 計 1日 8816円
麻薬だけの薬剤費が1日8800円を超しています。月には約26.4万円です。
もちろんこの患者さんには麻薬以外の処方、補液なども処方されていますし、食事摂取が難しくなればも補液の追加やIVHも考えられます。これら処方が包括されれば、療養病床での処方は無理だと考えて良いでしょう。
がん末期の患者さんを看護するホスピスも、全国的な設置は十分ではありません、急性期病院・専門病院から、平均在院日数によって、入院継続が必要な患者さんが追い出される事自体がおかしいことですが、もしこのような入院システムで行うなら、せめてがん末期の患者さんに対する疼痛管理の麻薬代や、経口摂取が難しくなった時、本人が望むなら栄養管理のIVH(中心静脈栄養)の料金など包括化から外すべきだと思います。
そうすれば、急性期病院・専門病院を退院せざるを得なくなった、がん末期の患者さんなども、療養病床での治療が可能ですし、ここでの治療継続なら入院基本料は包括化されていますので、専門病院の医療費のような青天井の高額医療にはならないのではないかと考えます。
勿論療養病床での、専門的な医療の質は、当然専門病院の質とは異なりますが、癌の末期の治療は、検査や薬ではなく、いかに信頼されて、少しでも苦痛を和らげる医療であり、短期間での転院では、難しいことですが信頼関係の構築が一番だと思います。
現在厚労省でも、専門家による「慢性期入院医療の包括評価分科会」で療養病床の医療について検討されていることを知りました。
それによると第1に医療提供実態からみた「医療区分」をまず設定する。次に、各「医療区分」に患者のADL自立度別に「ADL区分」を設定し、分類を3つとする案で検討が進んでいるようです。詳細はわかりませんが、医療の必要度と認知症の重症度で区分分けして、加算点数を配分するもののようです。これは現在の介護保険での要介護認定の要介護度分類と同じようなものを、医療制度の療養病床にも取り入れようとするもののようです。
ただ、医療では、必要な医療や処置は患者さん個人個人で大きく違うもので、区分分けには馴染まないと思っています。基本的な入院料を決めて、あとは必要に応じて出来高算定分を加算出来るシステムでないと、病状の重症度にかかわらず認めてしまうことになり、かえって医療費の高騰化が心配されます。そして、例えばがん末期なら内服加算の対象は、がん末期の麻薬処方だけとすれば、誰もが納得出来、療養病床でも受け皿になりうるものと思います。
平成17年8月9日
薬価リスト・薬効情報 麻薬の薬価