先日5月30日衆議院の決算行政監視委員会で民主党の川内博史氏が医療療養問題 の医療区分について質問しました。
その際「医療区分1」の診療報酬が低すぎるという指摘と、介護型療養病床との比較で、 「「医療区分1」にあたる人たちのうち、介護型療養病床で要介護4-5に当たる人たちはどれ位あるのか」という質問に、厚労省の担当課長は「詳しいことはわからないが
1/4程度であろう」と答えています。
厚労省は今回の療養病床再編成では「医療区分1」は社会的入院と決めつけ、これを50%以上にすることを前提に医療区分基準を決めたものであり、1/4という答えは全く現場を理解していない回答です。
「医療区分1」の対象となる疾患や状態像などの決定にも疑問点は多く、この点は別のページでも述べていますので、今回は「医療区分1」の診療報酬決定についてもう一度検討してみたいと思います。
「医療区分1」は看護職員などの人員配置が緩和されてはいますが、重度の障害をもち・意識障害や経管栄養の患者さんや重度の内臓疾患などもこれに含まれており、その患者さんたちを治療・看護してゆくにはあまりにも報酬が低く設定されています。この報酬では「実質的に療養病床から撤退を促す報酬」にしかならないと言われています。
医療区分の診療報酬決定について、厚労省資料では
○ 医療区分1
介護療養病床における要介護度1 ・2 の給付水準(*介護報酬) とほぼ同等になるように、A D L 区分1 ・2で764点、A D L 区分3 で885点に設定 *
多床室の場合、要介護度1 で782単位、要介護度2 で892単位』と記載してあります。
そして医療区分とADL区分により入院基本料が決められています。
ちなみに介護型療養病床の施設サービス費(介護報酬)(今回の改定・多床室)
要介護1 782単位(介護保険では1単位10円として計算)
要介護2 892単位
要介護3 1130単位
要介護4 1231単位
要介護5 1322単位
そして決められたのが下記の医療区分と入院基本料です。
[療養病棟入院基本料の見直し]
ADL区分 3 885 点 1,344 点 1,740 点
ADL区分 2 764 点 1,344 点 1,740 点
ADL区分 1 764 点 1,220 点 1,740 点
医療区分1 医療区分2 医療区分3
そこで不思議に思うのが、新たに導入されたADL区分です。これまで介護保険の要介護認定の際に使われた、日常生活の自立度・寝たきり度分類(A・B・Cランク分類)がやっと一般的になり、現在の医療療養病床でもこの分類は使われるようになり、重度の肢体不自由の定義はBランク以上となっていました。医療・介護の場で一般的に使われるようになった分類を使わずに新たにADL区分を持ち出したのは、何か理由があるはずです。
(認知症の程度を知る分類も、新たにCPS分類を取り上げています。)
そして、特に今回の医療区分にADL区分の加算を設定していますが、ADLの程度が介護保険制度でどれくらいの要介護度になるのかをを全く理解していない料金設定になっています。
ADL得点の算出方法は、下記の表のように「ベッド上の可動性・移乗・食事・トイレの使用」でその得点によって加算されることになっていますが、各項目ともADL区分の最重度の3は、23-24点なので、これらの活動が全く自立できず、全介助を必要する場合か、全くできない場合です。
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注* ADL算出方法 単純合計
自立 |
準備 |
観察 |
部分的援助 |
広範囲援助 |
最大援助 |
全面 依存 |
本動作 なし |
||
ベッド上の可動性 | 0 |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
6 |
|
移乗 | 0 |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
6 |
|
食事 | 0 |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
6 |
|
トイレの使用 | 0 |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
6 |
ADL区分
ADL 0-10点 → ADL区分1
ADL 11-22点 → ADL区分2
ADL 23-24点 → ADL区分3
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そうするとADL区分3とは、介護保険やこれまでの医療療養病床での日常生活加算に使われた日常生活自立度は
Cランクです。Cランクとはほとんど寝たきりの状態で1日中ベットで過ごし、排泄、食事、着替えにおいて介助を要する状態と定義されています。そしてCランクなら、当然介護保険では要介護度は4-5となります、「四肢の麻痺があり、ベッド上寝たきりで、意識障害もあり、経管栄養の患者さん」が「医療区分1」という分類もおかしいわけですが、
このADL区分3と判定されても、診療報酬ではADL区分3の場合にのみ、初めて764点に121点加算で885点になっています。
しかし前述したようにADL区分3とは、疾患は何であれ要介護認定を受ければ当然要介護4か5となる生活全介助状態です。それを「医療区分1」の報酬の決定において介護報酬の「要介護1か2」に合わせたということ自体、意図的でないとすれば現場を知らないものが決定したという証拠です。
要介護4-5の該当者(ADL区分3)が「医療区分1」の診療報酬885点では、介護型と医療型の療養病床で、別々の報酬体制となりますし、これは全く理屈にも合いません。介護保険制度を参考にしたというならば、介護療養病床の要介護4・5の1231〜1322点とすべきではないでしょうか。これを見ても医療療養病床のADL加算はあまり意味を成さないことがわかると思います。
このように現場を知らない連中が医療区分の診療報酬決定に介護保険の報酬持ち出し、同じ基準をあえて使わずこそっと別の基準を使ってごまかした医療区分の診療報酬は全く整合性はとれないのです。
厚労省資料にあるように、「医療区分1」の診療報酬を、介護療養病床の要介護1-2の報酬に設定したことが問題なのです。元気で入院の必要がない「社会的入院」がたくさんいるということを示したかったのかもしれませんが、介護施設にも療養病床にも、そんな患者さんは少なくなっていると思います。
厚労省の担当課長が調べもせずに1/4と発言したことは、介護型療養病床でも医療型療養病床でも介護保険を適応したとして要介護度で分類すると、平均4以上となることは調べればわかることであり、介護福祉施設・老人保健施設でも入所待機者はおおく、要介護度は3以上でないと入所待ちのリストに入ることさえできない現実も知らないのではないでしょうか。
医療区分の状態像や診療報酬の決定に、現場を無視した決定が行われていることを警告したいと思います。
そして廃止されることになっているが介護療養病床では要介護4・5は1,200単位以上となっており、医療区分を見直さないのならこの程度の料金設定にならないと制度上の不公平を国が認めたことになるのではないでしょうか。
[療養病棟入院基本料の 医療区分1の見直し私案] 介護保険と合わせるのなら
ADL区分3 1270 点 要介護4-5程度
ADL区分2 1130 点 要介護3程度
ADL区分1 890 点
平成18年6月6日 修正7日